芸術と骨董に関する歴史 陶磁器

ノリタケの歴史~江戸時代から現在

投稿日:2020年6月12日 更新日:

ノリタケ

ノリタケカンパニー(の前身)は1904年(明治37年)に設立されましたが、1981年に日本陶器からノリタケカンパニーリミテドに社名変更されました。世界中の人から「ノリタケチャイナ」の愛称で呼ばれる「ノリタケ」は、気品あるカタチとデザインで人気があり、日本を代表する陶磁器メーカーとして知られています。

ノリタケの始まりは江戸時代

ノリタケの元祖は江戸時代末期まで遡ります。江戸で馬具商を営んでいた六代・森村市左衛門はペリー来航以来、欧米から様々な文化が流入する一方で日本の金が海外に流出し、日本の国力が弱くなりつつあることを危惧していました。

1858年(安政5年)、日米修好通商条約の批准を目的にアメリカに派遣された幕府使節団のために、日本円を当時の国際通貨であるメキシコドルに換金する仕事を引き受けた際、貨幣の交換比率が悪く、森村は日本が損をしていることに気づいていました。また、横浜で舶来品を購入して江戸で販売する商売も行っていた森村は、横浜で日本の金銀が安く買われて外国へ流出していることも知っていました。

そこで森村が師と仰ぐ福沢諭吉に相談し、外国に流出した金を取り戻すには輸出貿易で外貨を稼ぐのが一番だとの助言を受け、輸出貿易に乗り出します。長い鎖国時代が明けたばかりで、日本人にとって海外は実態の知れない遠い存在でした。

在米日系商店:モリムラブラザーズの成功

1876年(明治9年)に、森村市左衛門は貿易商社「森村組」を設立し、弟の森村豊(とよ)をアメリカのニューヨークに派遣しました。豊はニューヨーク六番街238番地に「MORIMURA BROTHERS(モリムラブラザース)」という輸入雑貨店を開き、日本から届く陶磁器や漆器、印籠、屏風、掛軸、団扇などの伝統的な日本雑貨を販売しました。商品は大変人気が高く、当時のアメリカ人の顧客は日本から商品が届くのを楽しみに待つようになりました。

森村市左衛門は商品の仕入、荷造り、輸出書類の作成など、一人で懸命に業務をこなしていましたが、外貨を稼いで日本を豊かな国にしようという森村の思いに共感した「大倉孫兵衛」「大倉和親」(大倉孫兵衛・大倉和親の父子は後に大倉陶園を設立します)「村井保固」「広瀬実榮」らが森村組に加わりました。

明治維新後まもなく「モリムラブラザース」を在米拠点として始まったこの輸出貿易は日米貿易の草分けとなりました。

純白の洋食器の開発

アメリカでは陶磁器の人気が高かったため、今後の有望な商品になると判断した森村組では、自分たちで製作し販売する製品開発に乗り出しました。当時輸出していた陶磁器は花瓶や置物など、有田焼や清水焼のような純和風のデザインでしたが、商売を拡大するためには、アメリカの日常で使用する食器、そして白い生地に洋風な絵付けをする必要があると考えました。当時日本で製作されていた白生地は、アメリカで望まれていた白生地とは違い、アメリカでは純白なものでなければ食器として不適当であると忠告も受け、そこで先ず「純白な生地」への改良に取り組みました。
パリ万博で見た白い陶磁器に感銘を受けたことから、ドイツなどヨーロッパに技術者を派遣して、生地を白く改良する研究を続けましたが、5年経過しても目標とする白生地の生産は前進せず、研究と開発は頓挫してしまいました。

日陶の3・3生地

純白な生地の研究に苦闘している1902年(明治35年)にロンドンのローゼンフェルト社のB.ローゼンフォルト社長が「金盛の絵付けを教えてほしい」とニューヨークのモリムラブラザースを訪ねて来ました。金盛の絵付け方法を教え、一方では白生地の製造に困窮していることの助言を仰ぎました。

ローゼンフォルト氏の好意でオーストリアのカールスバットの工場の視察とドイツのゼーゲル試験場のヒヘト博士へ訪問し、白生地の原料の配合と釉薬調合の手順の教えを受け、白生地の開発は大きく前進しました。その後、研究を重ねた結果、天草陶石54、蛙目(がいろめ)粘土23、長石23の割合で配合することが最適であると突き止め、白生地の製造を開始してから10年の歳月を経て、永年の夢であった白生地の完成が叶いました。後にこの白生地は陶磁器窯業界で「日陶の3・3生地」と言われるようになりました。

「ノリタケ」の設立

白生地を完成させた森村組は1904年(明治37年)1月1日、ノリタケカンパニーの前身となる「日本陶器合名会社」を愛知県愛知郡鷹羽村大字則武字向510(現在の名古屋市西区則武新町)に設立し、日本の近代陶業が始まりました。
「ノリタケ」の名、商標は地名に由来しています。

永年の願望であった白生地が完成したため、瀬戸から購入していた灰色がかった生地は全て廃止されました。

割って分かった平らな皿の秘密

純白な生地はできたものの、日陶の3・3生地ではディナーセットの基本となる25cmの大皿を作ることができず、製造は困難を極めました。大皿自体は日本でも以前から製造されていましたが、底が平らな大皿を作るのは大変難しいことだったのです。

日本では一つ一つ形が違うことに味わいを見出す価値観が浸透していましたが、和食器とは異なり、洋食器は均一性が重んじられます。形がバラバラな食器は売れず、真っ直ぐな底のディナー皿を作ることが必須でした。

研究を重ねていたある日、行き詰った社員がフランスから取り寄せた見本皿を床に叩き付けて割ってしまいました。割れた断面を見ると、皿の中央部分が分厚く作ってありました。これまでは、皿の中央が凸凹になるのを防ぐため、できる限り中央を薄く作ろうとしていましたが、このことがかえって平らな底の皿を作れなかった原因だったと発見することができました。

日本初のディナーセットの完成

現在のノリタケカンパニー創立から10年の時を経た1914年、ついに日本初のディナーセットができあがりました。
(第一号ディナーセット「セダン」は、ノリタケカンパニーが100周年事業の一環として本社敷地内の工場跡地にオープンさせた「ノリタケの森」のミュージアムで見られます。)

加えてノリタケは1933年に日本で初めてボーンチャイナの製造に成功しました。 イギリスで生まれたボーンチャイナの製造は

・一般の磁器に比べ製造コストが高い
・ボーンアッシュの製造や坏土の調合・焼成などに非常に高度な技術を要する

などの課題が多かったのですが、ノリタケは1932年にボーンチャイナの研究を始め、翌年1933年にはボーンチャイナの試作品を完成させました。

ノリタケのボーンチャイナの本格的製造は1935年に始まり1938年頃にはノリタケのボーンチャイナ製ティーセット等が北米等に大量に輸出されるようになりました。ノリタケチャイナは困難にくじけず、未来を信じ邁進した先駆者たちの熱い思いの結晶です。

ノリタケカンパニーの功績

近年のノリタケは伝統的でフォーマルなデザインの食器やインテリアだけでなく、幅広い世代、男女を問わず愛される新しい感覚の食器が販売されています。ノリタケチャイナやノリタケボーンチャイナ以外にも強度と安全性に優れたプリマデュラ、電子レンジや食器洗浄機に対応したプリマチャイナ(アーズンウェア)など、新しい素材の食器なども生産し、人気商品となっています。

現在、長年にわたり培ってきたノリタケの食器製造技術が受け継がれ、一大セラミック産業に発展しています。世界に誇る日本の高級食器の大倉陶園などは全て日本陶器(現在のノリタケカンパニー)から独立した企業で創始者の名を冠して「森村グループ」と呼ばれ、世界最大級のセラミックス集団と言っても過言ではありません。

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