明治初期、日本が文明開花にわいていたころに「錦絵新聞」というメディアがありました。
浮世絵の一種である「錦絵」とふりがな付きの文章が並ぶ、一般大衆向けに新聞記事を解説した雑誌のような情報誌です。
こちらの絵は日刊紙「東京日日新聞」の錦絵新聞版。
眠る子供の枕元で幼児を抱いて佇む女性。母親が眠った我が子の様子を見ているだけにも思えますがよく見ると、穏やかな幼児の顔とは逆に、女性の目はつりあがっており、口もへの字に閉じられています。とても無念な思いを抱いているような表情。
錦絵の上に記載された文字から意外な事実が語られています。
ふたりの子供を残して亡くなった女性が夜毎現れるという内容。
そして文は文明開花の時代にあり得ない話だと結ばれています。
その無念な顔を見ていると心苦しくなるほど。
母親は抱えた幼児と布団で眠る子供を連れ去ろうとしているのでしょうか。幽霊が連れていくところは…おそらく黄泉の国ではないかと想像が膨らみます。

1874年から1881年にかけて盛んに発行された錦絵新聞では他にも幽霊の話が掲載されたものがあります。錦絵新聞はたちまち人気を博し、最盛期には40紙が発行されています。
この錦絵新聞は知識人へ向けたものではなく今でいう週刊誌のようなもので、一般大衆向けのゴシップのような記事に人気がありました。特に人気があったのは殺人事件や情痴事件、怪異譚(かいいたん)、美談西南戦争等です。
令和の今も大衆の興味は変わらないということですね。
今見ても芸術性の高い錦絵新聞ですが、制作に時間がかかるため、その後に登場した単色の挿絵と理解しやすい優しい言葉で書かれた「小新聞」へと変わっていくのでした。