骨董品の中でも今一番全体的な高騰化が進んでいるのが「象牙」と言っても過言ではないでしょう。「象牙」とは象の発達した切歯のことを言います。象は鼻とこの象牙を使って食糧を得ていました。象牙は耐久性が高く細工もしやすい素材なうえ、象牙独特の淡いクリーム色と程良い重量感で五感からも人の心を魅了し、古くから多くの地域で加工品や彫刻品として用いられてきました。
現在の日本では印材としての印象が強いですが、それ以外でも例えばグランドピアノの鍵盤やビリヤードボールなども昔は象牙で作られていました。現在成人されている方なら、小学校や中学校にあったピアノの鍵盤のあの独特の色に見覚えがあるかもしれません。あの鍵盤はひょっとしたら「象牙」だったかもしれません。
もっと歴史を遡ると、正倉院宝物の工芸品の素材で、象牙が用いられていたのが分かっています。また室町時代の足利将軍家には象牙製の卓・棚・筆・菓子の器などがあったとされています。その時代には象牙製の三味線のバチもあり、また掛軸などにも象牙は使用されていました。中国から輸入される象牙の観音様や仙人様、七福神などの工芸品はとても素晴らしく、当時からとても人気がありました。
しかし象牙は日本では得ることが出来ず、象が生息する特定の地域からの輸入に頼るしかありませんでした。最初は中国から輸入していたものの、中国の象も乱獲の影響で唐の時代には既に絶滅したと言われています。それ以降も世界での象の乱獲は続き、ついに1989年、ワシントン条約によって象牙の輸入は禁止されることとなりました。すなわち現在日本にある象牙は1989年以前に輸入されたものになります。そしてこれからも象牙の製品は入ってくることはありません。となると、結果的に現在日本にある象牙や象牙工芸品の値打ちはこれからも上がっていくことになるでしょう。
象牙の素材の素晴らしさに魅せられ乱獲が行われてしまったことで、自然の生態系のバランスが崩れてしまったことは言うまでもありません。実際にそんな歴史があったということも、知っておくべき骨董の世界の一部でもあるように感じます。