台子とは
台子(だいす:臺子)は水指などの茶道具を置くための棚物の一種で、茶道の点前(てまえ)に使用する茶道具です。
一般的には格式の高い茶礼(されい:禅宗における飲茶の礼法)で用いられ、特に真台子(しんだいす)は献茶式などで使用されます。真台子を使う点前は、茶道の点前の精神的・理論的根幹を成すものとされ、奥儀・奥伝・奥秘などと呼ばれて最後に伝授される習わしになっています。
台子の起源
天保元年(1830年 江戸時代後期)に喜多村信節によって著された文献「嬉遊笑覧」に、台子(だいす)の起源が記されています。
大徳寺の開山、宗峰妙超(しゅうほうみょうちょう:大燈国師)の師として知られる南浦紹明(なんぽしょうみょう:大応国師)が、宋に渡って径山寺の虚堂智愚(きどうちぐ:中国・南宋の臨済宗の僧)の方を嗣ぎ、文永4年(1267年)に帰国する際に「台子と皆具一式」を持ち帰り、九州博多の崇福寺に納めたと伝えられています。
台子は後に大徳寺に送られ、続いて天龍寺の開山・夢窓疎石(むそうそせき)の手に渡り、夢窓によって点茶の方式が考えられたとされています。これが足利将軍家の書院茶(※1)の台子荘りの範となって広く普及していきました。
書院茶(※1)…広間の書院に天目茶碗や唐物茶入など、中国渡来の豪華な茶道具を台子に飾った茶の湯の式をいいます。
台子の普及
6代将軍義教、8代将軍義政の時代(15世紀)に同朋衆(どうぼうしゅう:室町時代以降、将軍の側で芸能などを行っていた人々)として活躍した能阿弥・芸阿弥・相阿弥も台子荘りを行い、それが義政に近侍した村田珠光(むらた じゅこう)、武野紹鷗(たけのじょうおう)を経て利休に伝えられ、台子による点茶の方法が定められました。
利休の茶道理念を伝える「南方録」は「覚書」から「滅後」までの七巻から成り、第五巻が「台子」です。その中に「台子は栄華結構の式なれば、万疎略あるまじく候、是茶湯の極真にて、方式の根本也」と、台子の重要性が記載されています。また、台子の相伝を受けたことによるとして、蒲生氏郷、高山右近、細川三斎、芝山監物、瀬田掃部、牧村兵部、古田織部は、「利休七哲(りきゅうしちてつ)」「利休台子七人衆」とも呼ばれていることから、台子が特別な重要性をもっていたとされています。
台子の種類
台子は真の台子、行の台子、草の台子に分けられ、用いる茶道具も変わります。
真の台子…真塗(しんぬり)の角4本柱。通常唐銅、あるいは陶磁器の皆具を用いる。
行の台子…桐木地の竹4本柱。
草の台子…2本柱あるいは木地の4本柱のもの。
行・草の台子…水指、杓立、建水、蓋置は皆具ではなくそれぞれ違ったものを取り合わせる
台子にも様々な種類があります。
真台子、竹台子、及台子、高麗台子、爪紅台子を「五つ台子」と称し、他に材質から名付けられた銀杏(いちょう・鴨脚(おうきゃく))台子、蒔絵の意匠が名称となった老松台子、夕顔台子などがあります。
どの台子も、書院茶の方式を基本にして荘り付けや点茶の方法にさまざまの規範が定められています。
真台子(しんだいす)
真塗り4本柱の最も格が高いとされている台子です。
大きさは幅91cm・奥行き・42cm高さ67cm程度と大変大きく、京間に適しています。通常は皆具(水指・杓立・建水・蓋置の4つを同一素材・同一意匠で揃えたもの)を合わせます。
竹台子(たけだいす)
桐木(きりのき)地に竹の4本柱。元々は村田珠光創案で真台子と同寸の大きなものでした。
現在一般的に使用されているのは千利休が炉用に改変した小型の幅75cm奥行き38cm高さ60cm程度の台子です。
及台子(きゅうだいす)
2本柱で、及第台子とも呼ばれています。科挙(中国で行われた官吏の採用試験)の進士及第の者のみが通れる門をかたどったとも、進士及第の作文を置くための台から生じたともいわれています。
高麗台子(こうらいだいす)
千宗旦(せんのそうたん)好みと小堀遠州(こぼりえんしゅう)の好みがあり、これら2つは名前が同じでも形状が全く異なります。宗旦好みは幅67cm高さ50cm程の小振りの真塗りで、琉球貿易でもたらされた唐物の卓をかたどったものです。遠州好みは木地製で大棚に近いものです。
爪紅台子
天地の板の面を紅漆で塗った及台子(きゆうだいす)の一種です。
長板(ながいた)
台子を基にさまざまな大棚、小棚が生まれました。長板(ながいた)も台子に由来する道具のひとつで、「台子の天板を下げたもの」や「地板をかたどったもの」ともいわれます。
風炉用と炉用で、長さ・幅・厚みに違いがあり、木地のものや塗を施したものなどがあります。点前は台子に合わせて総荘りが本来とされていますが、「ひとつ置き」や「ふたつ置き」など長板ならではの荘り付けもあります。
長板は真台子の天板または地板に相当するもので、大小の二種類があります。大きいものは風炉用、小さいものは炉用で厚みも風炉用がわずかに厚くなります。どちらも真塗を原則としますが、後に黒搔合わせ塗や桐木地、青漆、松の摺漆(すりうるし)などの好み物も作られるようになりました。