数え終わるまでにお逃げなさい
「一枚…
足りない…」
怪談好きの人なら知っている「番町皿屋敷」。
火付盗賊改・青山播磨守主膳(はりまのかみしゅぜん)のお屋敷に奉公する下女、菊が、主人の大切にする皿10枚のうちの1枚を割ってしまいました。主人と妻は菊を折檻し、耐えかねた菊は古井戸に身を投げました。
それ以降、夜中に古井戸から皿を数える女性の悲痛なが聞こえてくるのです。
主膳が領地を没収されて以降もお菊の泣き声は止むことがありませんでした。

葛飾北斎の連作「百物語」でも「さらやしき」として取り上げられています。
こちらの絵のお菊の表情は無気力でありながら、ユーモラスでもあり、怖い印象はあまりありません。
口から吹き出しているものは「霊気」や「漫画のような表現をしたため息」という見解もあります。
この絵の不気味さは顔よりも体の方かもしれません。首が皿で描かれており、お皿はよく見ると幾何学模様。長い黒髪とまとわりつき井戸へと流れていくその様が蛇のようにも見えます。
それに気づいた時に、この無表情がとても不気味に思えてくる不思議。
無機質な冷たい蛇の表情と舌に見えてくる…
お菊が執念深く主人夫婦を呪っているおどろおどろしい心が伝わってきます。
落語の世界のお菊さん
番町皿屋敷は落語「お菊の皿」でも語られます。
北斎が描いた容姿とは違い、落語で登場するのは大変美しい女性の幽霊です。若者たちはその美しい幽霊の虜になるとか。
ところが…
お菊が皿を9枚まで数えるのを聞くとあの世へ逝ってしまう。ですから数え終わるまでに逃げなくてはいけませんが夢中になるあまり、逃げ遅れるものがいるのです。
ある時、お菊はなぜかお皿を18枚まで数えました。
理由は…
「明日は休むから2夜分数えた」
とのこと。