
山東京伝(さんとうきょうでん)の怪談話「復讐奇談安積沼」を基にした歌舞伎脚本「小幡小平次」という話があります。
旅役者の小幡小平次は間男によって沼に突き落とされて亡くなりました。
が、もののけとなって妻の元に帰ってきました。
ここに描かれている男性は小幡小平次の幽霊です。
間男は小平次を殺めておきながら、小平次の妻と蚊帳の中で愛を語っているではないですか。
明治時代の浮世絵師「歌川国歳」によるこの作品「こはだ小平次」は、自分を殺めた男と妻の情事をうらめしげに覗き込んでいるシーンを描いています。
小平次は旅役者でありながら、なかなか役がつかず、死人の顔をするなどの役作りによってようやく報われようとしていました。「幽霊小平次」との異名で有名になってきた矢先、妻を寝取られ、さらには殺されてしまったのです。
皮肉にも、実際に自分の役どころであった幽霊になり、その情事を見ることになりました。
この笑顔が不気味で、さて、どんな復讐をしてやろうか…とでも考えているようですね。
一方で、妻が他の男とあられもない痴態を演じるのを見て、ゆがんだ愛情といやしい性的な欲望や好奇心で満たされているのか。
この後、間男は幽霊になった小平次を見て苦しみ、小平次は間男と妻を憑き殺します。
元々幽霊顔だったせいか、小平次の幽霊を見た人は幽霊だとは気づかなかったとか。
幽霊としての役者冥利に尽きる?
歌川国歳の作風
歌川国歳はこの「こはだ小平次」の他、美人画といわれる「扇もつ芸者図」、「源頼政鵺退治図」(大英博物館所蔵)などの有名な作品を残しています。
「源頼政鵺退治図」は平家物語に登場する弓の達人「源頼政」による妖怪退治を描いています。
実写よりも想像力がいきる世界で作品を生み出すことが得意だったようです。
葛飾北斎も同じモチーフで「百物語 こはだ小平次」を残しています。そちらは圧倒的な恨めしさが伝わる作品で、見る人に惨劇を想像させます。