
巨大な骸骨のインパクトに圧倒される歌川国芳作「相馬の古内裏」。
山東京伝(さんとうきょうでん)の読本(江戸時代後期に流行した戯作)「善知安方忠義伝(うとうやすかたちゅうぎでん)を脚色した歌舞伎「将門」のワンシーンです。
国芳は「幕末の奇想の絵師」と呼ばれた鬼才でもあります。骸骨のスケールが印象的なこの作品ですが、南蛮渡来の解剖学に基づいたと思われるリアルな骨格が一層の恐怖心を煽ります。
平安時代、平将門が朝廷に弓して破れた後…が舞台
その遺児、瀧夜叉姫(たきやしゃひめ)は、この時代に女性であるにもかかわらず父の遺志を継いで朝廷に逆らいました。本拠は下総国猿島郡の古内裏。かつて将門が京都の御所を模して建てたものです。
噂を聞きつけた源頼信(頼信)の命を受けて、大宅太郎光圀(おおやのたろうみつくに)はひとりで、将門の残党を滅ぼすために古内裏へとやってきました。
寝ていた光圀が目を覚ますとそこに美しい女性がいました。遊女だという彼女は客に連れられて嵐山を訪れた花見の際に光圀を見初めたといいます。
その遊女がなぜこのような東国の古内裏にいるのか…光圀は不審に思い、この女性は将門の忘れ形見ではないかと疑いました。すぐさま斬り捨てることもできましたが、疑いながらも美しい女性に慕われて悪い気はしません。
そこで光圀は、将門の乱の詳細を彼女に語り聞かせました。彼女は言い訳をしながらも頬を涙が伝い、将門の形見を持っていたこともバレて、とうとう本性を現したのです。
妖術で滝夜叉姫(女性の正体)が光圀を宙に浮かせようとしますが、光圀は刀で応戦します。
本戦が始まり、滝夜叉姫に操られる骸骨の登場。
国芳はこの妖術を使う女性、滝夜叉姫を大変美しく描いていますが、彼が描きたかったのはやはりこの巨大な骸骨でしょう。
歌舞伎の世界ではここで登場するのは無数の等身大骸骨ですが、国芳はそれをひとつにまとめて巨大に、そしてリアルに表現しました。
現在も奇想の絵師と呼ばれる国芳のこの構図を取り入れた作品は多く、それまでの浮世絵にはないインパクトを残しました。事実、このころから多くの超現実的な妖怪画が描かれるようになったことからも歴史を変えた作品と言えるでしょう。
物語の結末は?
光圀はどのようにしてか巨大骸骨を撃ち倒し、滝夜叉姫は妖術で出した大釜に乗ってどこかへ去ってしまいました。